『生物多様性条約締約国会議(COP10)』が開かれます
地球全体には、バラエティに富んだ多様な生物が存在しています。その中には、哺乳類や植物、鳥類、魚類からさまざまなバクテリアまで、多様な姿の生物が含まれています。
この生きものたちの命のつながりを、私たちは「生物多様性」と呼んでいます。 しかし自然環境の悪化に伴い、この生物の多様性が、これまでにない早さで刻一刻と失われつつあります。それは主に、資源の過剰利用や環境汚染など、私たち人間の活動が引き起こしてしまったもので、希少種の生息域を狭め、絶滅危惧種を増やしているのです。
2010年10月。愛知県名古屋市で、生物多様性条約に関する10回目の締約国会議「COP10」(国際条約を結んだ国が集まる10回目の会議(締約国会議))が開催されます。
生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)とは、多様な生き物や生息環境を守り、その恵みを将来にわたって利用するために結ばれたもので、ラムサール条約やワシントン条約などの特定の地域、種の保全の取組みだけでは生物多様性の保全を図ることができないとの認識から、新たな包括的な枠組みとして提案されました。
生物多様性条約には、3つの目的があります。
■ 地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全すること
■ 生物資源を持続可能であるように利用すること
■ 遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分すること
この条約には、先進国の資金で開発途上国の取組を支援する資金援助の仕組みと、先進国の技術を開発途上国に提供する技術協力の仕組みがあります。経済的・技術的な理由から生物多様性の保全と持続可能な利用のための取組が十分でない開発途上国に対する支援が行われることになっているのです。
また、生物多様性に関する情報交換や調査研究を各国が協力して行うことになっています。
【生物多様性や絶滅危惧種】というと、象牙の乱獲を防ぐための象の密漁禁止を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。事実、象牙の国際取引はワシントン条約で禁止されています。
しかし2008年。9年ぶりに象牙の国際取引向けの競売がアフリカで行われ、2009年には日本国内に政府によるアフリカゾウの保護・管理が十分におこなわれている南部アフリカ4ヵ国から購入した象牙が輸入されました。この象牙の国際取引は南部アフリカの国々の強い意向のもと、アフリカ諸国の合意でおこなわれましたものです。そしてこの4ヵ国は在庫の増えた象牙を国際取引することで得た資金を、人間とアフリカゾウの摩擦を解消するためや、アフリカゾウの保護に使用しています。
『象牙に関するワシントン条約の推移 』
アフリカ象は1976年2月にガーナがワシントン条約に加盟した際、自国の個体群を付属書Ⅲに掲載しました。そして同年11月、第1回目の締約国会議でアフリカ象の付属書Ⅱへの移行が決定し、翌2月にこの決定が効力を発生したのです。
つまり、ワシントン条約が発効した翌年の76年以降、アフリカ象はずっと条約の対象種であったのです。
1989年にスイスのローザンヌで開催された第7回ワシントン条約締約国会議では、アフリカ象の個体数が10年間で半減したとして、アフリカ象がそれまでの付属書Ⅱから付属書Ⅰに移行しました。 その結果、アフリカ象とその派生物の国際取引が禁止されたのです。日本の伝統的産業である象牙業界の、生業の対象である原材料の象牙は日本に輸入できなくなりました。
この第7回締約国会議では無条件の付属書Ⅰ移行は否決され、一部の国のアフリカ象は付属書Ⅰ掲載の要件を満たしていないことから、いったん全てのアフリカ象を付属書Ⅰにするものの、今後付属書Ⅱへの移行(いわゆるダウンリスト)を希望する国がある場合は専門家パネルを設置し、パネルの調査結果を締約国会議に報告させるという修正案が採択されました。
この手続に従い、京都で開かれた第8回締約国会議に南部アフリカのいくつかの国からの提案があったものの採択の見込みがないとみて、提案国は提案を撤回しました。その後、1997年にジンバブエのハラレ市で開催された第10回締約国会議でボツワナ、ナミビア、ジンバブエのアフリカ象固体群がいくつかの要件を満たすことを条件に付属書ⅠからⅡに移行し、1999年に開かれたワシントン条約常設委員会にて全ての要件を満たしたと承認されたことから、同年7月にこれら3ヶ国から日本に象牙50トンが輸入されました。しかしこの輸入は1回限りのもので、さらなる取引を望む場合は、再度、締約国会議に提案を提出する必要がありました。2000年にはケニヤのナイロビで第11回締約国会議が開催され、南アフリカのアフリカ象固体群が付属書ⅠからⅡに移行しましたが、この会議では、象牙の取引は許可されませんでした。
2002年には第12回締約国会議がサンティアゴでひらかれ、この会議にボツワナ、ナミビア、ジンバブエ、南アフリカ、ザンビアの5ヶ国が象牙取引を求める提案を提出しました。ボツワナ、ナミビア、南アフリカについては、賛成票が3分の2を占めたことから提案が採択されましたが、ジンバブエとザンビアの提案は過半数の賛成はとったものの3分の2には達しなかったことから、否決されました。ボツワナ、ナミビア、南アフリカの提案が採択された時の条件は、その後、2005年と2006年に開かれた第53回及び第54回のワシントン条約常設委員会で議論の対象となりました。
第54回常設委員会では、日本が取引相手国として承認されたものの、その他の条件がいまだ満たされていないとして、象牙取引は再開されませんでした。中国も取引相手国として手を挙げていましたが、ワシントン条約事務局は問題点がいくつかあるとして、取引相手国としての承認をしませんでした。
この問題は、2007年6月の第14回締約国会議直前にハーグで開かれた第55回常設委員会で再審議され、中国を認めるべきか否かが議論となりましたが、投票の結果、中国は取引相手国として承認されなかったのです。この時点では、日本だけが取引相手国として認められたことになります。これらのことから、南部アフリカ3ヶ国(ボツワナ、ナミビア、南アフリカ)から象牙60トンが近々日本に輸入されると期待されましたが、翌日から始まった締約国会議の結果、そうはならなかったのです。
オランダのハーグで開かれた第14回締約国会議には、ボツワナによる単独提案、ナミビアとボツワナによる共同提案、ケニヤとマリによる共同提案の3つが提出されました。
ボツワナによる提案は自国の象牙在庫を輸出するための提案で、ナミビアとボツワナの共同提案は南アフリカとジンバブエの象牙も含め、毎年の輸出枠を決議10.10に沿い自国で決めることができるというものでした。ケニアとマリの共同提案は、2002年に決定した象牙60トンを除き、今後20年間、南部アフリカ4ヶ国は象牙の取引をできないというものです。
この3提案をめぐりさまざまな議論がなされましたが、紆余曲折の末、常設委員会で承認された60トンに加え、南部アフリカ4ヶ国が2007年1月末までに登録した政府所有の在庫約40トンも輸出できることになったのです。しかし、これらの輸出にあたっては、60トンの象牙と一緒に取引されなければならないとのことになり、常設委員会で新たに登録された在庫象牙の条件が満たされることが必要となりました。
翌年の第57回常設委員会では、中国が取引相手国として適当であるかの審議がなされました。反対意見もありましたが、投票の結果、中国も相手国として認められることになります。その結果、2008年に南部アフリカで開かれた約100トンの象牙オークションのうち、日本は40トンを確保し、2009年5月に日本に到着しました。
ところで、オランダでの締約国会議では、この象牙取引が承認される条件として今後9年間、これら4ヶ国は象牙取引のための提案を提出できないことも同時に決まってしまったのです。今後、恒常的に象牙国際取引を進めていくためには、原産国側でまだ付属書Ⅰに置かれている国の象固体群を付属書Ⅱに移行する必要があります。
当面の可能性がある国としてはザンビアとタンザニアが考えられ、そのザンビアが約21トン、タンザニアは約89トン分のダウンリストの提案を今年3月にカタール国のドーハで開かれる第15回締約国会議に向けて提出しました。
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今回は2007年にオランダで開かれたCOP14で認められた南部アフリカ4カ国からの約100tのワンオフセールが2008年10~11月に行われてから初めての会議でした。
こうした状況下で、大15回ワシントン条約締約国会議が2010年3月12日~3月25日までカタールのドーハで開催された。タンザニアがダウンリスト及び在庫象牙約90tの1回限りの輸出、そしてザンビアがダウンリスト及び在庫象牙約22tの1回限りの輸出を求める提案を提出しました。
提案が採択されれば、ボツナワ・ナミビア・ジンバブエ・南アフリカの南部アフリカ4カ国以外にも、附属書IIに属する新たな原産国、そして約112tもの象牙が取引可能になるため各関係業界から大きな期待が寄せられていました。
一方でケニアは、2008年11月に行われたオークション終了後20年間、全ての取引に関する新たな提案をすることができないというような提案を提出していました。
その結果、残念ながらタンザニア、ザンビア両提案ともに採択はなりませんでした。しかし、タンザニア、ザンビアのアフリカゾウ人口、アフリカゾウ保護、管理状況などが改善したからこそ、タンザニア、ザンビアが提案を提出したのであり、今後2013年に開かれる次回のCOP16での両国の対応が注目されます。